夏目漱石の「道草」を読了!あらすじや感想です!

小説 小説

夏目漱石の小説「道草」についてです。

ネタバレもありますので、ご注意を!

道草とは

道草は、夏目漱石の長編小説(全102章)で、
1915年6月~9月にかけて朝日新聞に
連載されました。

夏目漱石の没年月は1916年12月で、
次作の長編小説・明暗は未完に終わりました
ので、本作が最後の完結長編作品になります。

内容は、主人公の教師が
周囲の様々な人間から金を要求され続け、
また、夫婦関係も上手くいかないというもので、
作者の自伝的要素の強い作品と言われています。

主な登場人物

・健三(けんぞう)
主人公の教師。36才。2女児の父だが夫婦仲は
不仲。彼が絶縁した養父と再会するところから
物語が始まる。

・御住(おすみ)
健三の妻。時々持病のヒステリー症を発症する。
父はかつて公職に就いていたが、
現在は困窮している。

・御夏(おなつ)
健三の腹違いの姉。51才。
健三から毎月小遣いを受け取る。
夫の比田(ひだ)は健三の従兄。

・長太郎(ちょうたろう)
健三の兄。健三より7つ年上で役所勤め。
亡き娘の治療のため私財をつぎ込む。
生活に余裕はない。

・島田
健三の養父。健三の父に依頼され
健三を育てるが、自身の不倫・離婚が原因で
健三の父から絶縁される。

・御常(おつね)
島田の前妻で健三の養母。
島田の不倫が原因で島田と離婚。
現在は島田同様、健三一家と縁が切れている。

・御藤(おふじ)
島田の後妻。前の夫に先立たれた後、
島田と出会い、不倫の末、
娘の御縫(おぬい)を連れ島田と再婚する。

あらすじ

あらすじ-要約

主人公の教師・健三は、
かつての養父である島田と再会する。
健三と島田は長らく絶縁状態だったが、
島田は現在の窮状を訴え、健三に金を要求する。
健三の元には、島田以外にも
様々な人物が金を要求してくる。
小遣いを増やしてほしいと言う姉。
長年縁が切れていたのに突然現れた養母。
金を借りる保証人になってほしいと言う義父。
皆、教師の健三は経済的に豊かだと
考えていた。健三の兄も
弟の袴を借りにくるほど生活は苦しい。
健三は彼らから金銭的な要求がある度に、
不快に感じながらもその都度金を工面していた。
また、健三は妻・御住と分かり合えず、
口論が絶えない。
最終的に、健三は島田に手切れ金を渡し、
再び絶縁することになるが、
健三は世の中に片付くものはないんだと言う。

あらすじ-詳細

・1~10章
主人公の教師・健三は、かつての養父であり、
家族から絶縁された男性・島田を見かける。
喘息もちの姉・御夏に相談に行くと、
毎月渡している小遣いの増額を要求され、
島田のことは知らん顔をしておけと言われる。
健三と妻・御住はお互いを分かり合えずにいる。

・11~20章
島田の知人・吉田が健三宅を訪問し、
年老いた島田の窮状を訴え金を要求する。
健三は断るが島田との面会は了承させられる。
後日、島田が吉田に連れられ訪問。島田は
丁寧な態度だったが、健三は不快な思いを抱く。
兄・長太郎の家に行った御住から、長太郎が
島田のことで心配していると聞かされる。
御住は家計を助けるため着物を質に入れていた。

・21~30章
健三はたくさん働いて収入を増やすが、
御住にやさしい言葉はかけず、夫婦関係は
良くならない。御夏の夫・比田から連絡があり、
比田、長太郎、健三の3人で島田の件を
相談することに。島田は比田の元を訪れて、
健三の島田家への復籍を要求していた。
相談の結果、比田が代表して島田の要求を
断ることになる。御住が3人目の子を妊娠する。

・31~40章
長太郎が健三宅に、書類の束を持ってくる。
書類は健三の父が島田とのやり取りをまとめた
もので、健三が島田家に養子に出されてから
戻ってくるまでの経緯が書かれたものや、
島田と絶縁した時の金の証文などがあった。
役人の長太郎は、亡き娘の治療のため
私財をなくし、今では健三から
古い袴を借りるほど困窮していた。
健三は袴を返しに来た長太郎から、
この間の相談通り、比田が島田に断りを
入れたことを聞く。健三は過去に囚われる
長太郎を気の毒に思いながら、
自身も島田夫妻に養育された過去を振り返る。

・41~50章
島田と島田の妻・御常はケチな性格だったが、
養子の健三には贅沢をさせていた。
それは愛情からではなく、健三の歓心を
得るためで、健三は次第に我儘になり、
養父母に反発していった。
やがて、島田が家を出て御藤と再婚したので、
健三は御常と二人になるが、
程なく実家に戻された。御常も波多野と再婚し、
健三の一家とは縁が切れた。島田が健三宅を
再訪し、掛物はいらないかと言って帰る。
御住がヒステリー症で寝込んでいる時、
島田がまた再訪し、実は話したい事があると
言って帰る。御住の具合は良くなる。

・51~60章
島田の話とは、やはり金のことだった。
健三は島田に、財布の中にある紙幣を全て渡す。
御住は次第に身重になり、今度のお産では
助からないかもしれないと健三に話す。
島田は健三宅を何度も訪問し、その度に健三は
金を渡す。御住と健三は互いに非難し合い、
健三はわが子に八つ当たりをすることもある。
昔、健三が渡英した時、御住と子を
御住の実家に預けたが、御住の父(役人)は
地位を失い、御住と子も生活に困窮。
帰国した健三は、生活費を得るため
職を辞して退職金を受け取ったり、借金を
返すために知人から借金をしたりしていた。
健三は自身を貧乏人と考えていたので、
自分に金をもらいに来る人間が腹立たしい。

・61~70章
島田の後妻・御藤の連れ子の御縫が、
重い脊髄病にかかる。もし御縫が亡くなると、
御縫の夫・柴野と島田の縁が切れ、
島田への月々の送金が無くなることになる。
突然、島田の前妻で健三の養母・御常が
健三に会いに来る。
御常は健三一家と縁が切れた後の経緯を語り、
健三は御常が帰る時、彼女に五円紙幣を渡す。
御住は、今後は島田だけでなく御常からも
金を要求されると健三を非難する。健三は
長太郎や御夏の体調が悪いと聞かされるが、
自身の体調の悪さも感じている。

・71~80章
健三の着古した外套をもらって喜ぶほど
困窮している御住の父が、健三宅を訪問。健三に
金を借りるための保証人になってほしいと頼む。
健三は保証人になることは断るが、
友人の知人から四百円を借りて御住の父に渡す。
健三と御住の間には溝があったが、
御住のヒステリー症が緩衝材の役割を果たした。
しかし健三と御住の父の間にある溝には、
そのような緩衝材がなかった。
産婆から、御住の出産予定は一週間より後と
言われたが、予定より早く産気づき、
産婆の到着前に出産する。

・81~90章
生まれた子はまた女の子で、健三は少し
失望する。健三は家族や親族、知人との関係が
全て片付かずにいることに思いを巡らす。
健三と御住は相変わらず口論が絶えない。
健三は知人に頼まれ、雑誌に掲載する原稿を
書き、三十円の臨時収入を得て喜ぶ。
御常が健三宅を再訪。
健三は御常が帰る時、また五円紙幣を渡す。
御住が、御常は五円で帰るので島田よりは好いと
言う。島田が健三宅を再訪。
御縫が亡くなったので御藤と柴野の関係が切れ、
送金が途絶えたと告げる。島田は年を越すための
まとまった金を要求するが、健三は拒否。
島田はもう来ないと言って帰る。

・91~102章
健三は実父にも養父にも愛されずに育った。
年の暮れが近くなり、島田の使いが健三を訪問。
彼は健三にも旧知の人物で、
島田が持っている書付を買い取って
島田と縁を切らないかと持ち掛けてきた。
書付は健三が実家に復籍する時に、
「今後互いに不義理不人情な事はしたくない」と
島田に頼まれて書いたものだ。
健三は百円なら出してもいいと答える。
健三は原稿を書いて百円を作り、
比田に頼んで島田に渡してもらう。
比田と兄が健三宅を訪れ、
島田からの絶縁の誓約書と例の書付を受け取る。
御住は島田との関係が片付いたと喜ぶが、
健三は世の中に片付くものなんてないと言う。

あらすじ-全章要約

主に主人公・健三目線での全章要約です。

・1章
15,6年前に縁を切った男と偶然すれ違う。
・2章
男とまたすれ違う。男はこちらを凝視するが無視
・3章
二度会った男のことを思い出し、姉の家へ行く
・4章
喘息持ちの姉に毎月小遣いを渡している
・5章
姉の夫の比田は女癖が悪いが姉は気づかない
・6章
姉から小遣いの額を上げてくれと頼まれる
・7章
姉にこの前会った男=島田のことを話す
・8章
島田の近況は分からない。家へ帰る
・9章
普段の生活に戻るが体調が悪い
・10章
風邪で寝込む。看病をする妻と口論になる
・11章
寝込んでいる時に島田の件で男が訪ねて来ていた
・12章
体調がよくなる。この前訪ねて来た吉田が再訪
・13章
島田に金は渡せないが交際は可能と吉田に告げる
・14章
妻が島田との交際に反対するが取り合わない
・15章
島田に親切にされた少年時代を思い出す
・16章
吉田と島田が訪問。島田は丁寧な言葉遣い
・17章
吉田と島田がとりとめのない話を終えて帰る
・18章
妻が実家に行った帰りに、兄の家にも寄る
・19章
兄は島田の来訪を知り、金の無心を心配する
・20章
妻は生活費が足りないため着物を質にいれていた
・21章
多く働き給料を増やすが夫婦関係は良くならない
・22章
かつて結婚の話も出ていた御縫について妻と話す
・23章
島田のことで比田と兄と3人で会うことになる
・24章
比田の家へ。姉は喘息で寝込んでいた
・25章
比田は喘息の姉を持病だからと言って心配しない
・26章
兄の長太郎がようやく到着
・27章
島田は比田に健三の島田家への復籍を要求
・28章
島田の要求は比田が代表して断ることに決定
・29章
妻は3人目の子を身ごもっていた
・30章
留守中に兄が島田の件で来て妻に書類の束を渡す
・31章
書類は父が島田とのやり取りをまとめたもの
・32章
書類の中には島田と絶縁した時の金の証文も
・33章
兄は袴を健三から借りるほど余裕がない
・34章
役人の兄は亡き娘の治療のため私財をなくした
・35章
留守中に兄が袴を返しに来て妻と雑談。健三帰宅
・36章
書類から兄の妻の送籍願や亡き娘の出産届も発見
・37章
先日の相談通り島田の要求を断った旨を兄に聞く
・38章
過去に囚われる兄が気の毒だが、自身も振り返る
・39章
島田夫妻と過ごした家を思い出した
・40章
島田と妻御常はケチだが養子の健三には甘かった
・41章
島田夫婦は健三の歓心を買うことに執着していた
・42章
健三は我儘に育ちよく嘘をつく御常を毛嫌いした
・43章
島田が御藤と逢瀬。御常は健三に八つ当たりした
・44章
健三の前から島田と御常が消え、実家へ戻った
・45章
その後御常とは一度手紙が来たっきりだった
・46章
再び島田が家に来て姉の家へ行ったと話し、帰る
・47章
妻は具合が悪いと横になる。ヒステリー症を疑う
・48章
再訪した島田と向き合う。老いた島田を見つめる
・49章
島田は帰り際、実は話したい事があると言い残す
・50章
寝込む妻は目を見開いて動かない。暫くして快方
・51章
明日の講義もまとまらないのかと努力が嫌になる
・52章
島田が再訪し遂に金を要求。財布の全紙幣を渡す
・53章
財布には妻が紙幣を入れていた。妻は身重になる
・54章
ある晩妻が髪剃を持っていたので奪い取り投げる
・55章
妻はかつて、子を連れ実家に戻ったこともあった
・56章
島田は訪れる度に金を要求し、金額も増えていく
・57章
わが子に八つ当たりするほど心が乱れる
・58章
昔困窮する妻や妻の父のため職を辞して金を作る
・59章
友人に金を返すため別の友人に金を借りたことも
・60章
島田から小遣いの財源と見られるのは腹立たしい
・61章
御縫が脊髄病で助かる見込みがない
・62章
義母の御常が突然来訪。昔と違い礼儀正しい
・63章
御常は絶縁後の事を語る。帰り際五円紙幣を渡す
・64章
今後は御常からも金を要求されると妻から批判
・65章
妻と口論になり互いに非難しあう
・66章
島田と御常の他にも、姉や兄の消息も耳に入る
・67章
体調が悪いという姉を見舞うがもう回復していた
・68章
姉の夭折した実子の位牌を前に、姉と語り合う
・69章
姉には帰国時に依頼され毎月小遣いを渡している
・70章
姉の家から帰宅。いつものように妻と言い争いに
・71章
健三不在時に妻の父が訪問。次は直に会うことに
・72章
妻の父は健三の古い外套を喜んで着るほど困窮
・73章
妻の父が再訪。金を借りる証人になるよう要求
・74章
証人になるのが嫌で、自分で四百円を借りて渡す
・75章
妻の父がどのように困っているのか知らなかった
・76章
妻の父は昔仕事がうまくいかずに悲境にいた
・77章
妻は自分に優しければどんな夫でもいいと言う
・78章
妻の発作が夫婦間の緩和剤になっていた
・79章
産婆に妻の出産は一週間より少し後だと言われる
・80章
妻は予定より早く産気づき、産婆の到着前に出産
・81章
産婆が来て健三に子は女だと告げる。少し失望
・82章
親族や知人との片付かない関係が心の内にあった
・83章
妻から女房や子への情愛に欠けていると言われる
・84章
妻とまた口論。ノートの文字が一層細かくなる
・85章
妻は出産祝いで姉に貰った切地で子の着物を縫う
・86章
知人に頼まれ書いた原稿で三十円を受け取り喜ぶ
・87章
体調の悪い自覚はあるが、医者には行かなかった
・88章
御常が再訪し、帰る時にまた五円を渡す
・89章
島田がまた来て脊髄病の御縫が亡くなったと話す
・90章
孤立無援の島田はまとまった金を要求。だが断る
・91章
実父や養父に愛されずに育ち人と分かり合えない
・92章
妻の弟を教育することを妻一家に反対されていた
・93章
夫と打ち解けられない妻は愛情を子に注いだ
・94章
年の暮、島田の使いが来るが日を改めてもらう
・95章
島田の使いが再訪。島田への手切れ金を要求
・96章
今後無心しないのであれば百円なら出すと伝える
・97章
兄、姉、妻の父、みな年越しに苦労していた
・98章
島田の使いに正月一杯までに百円を渡すと約束
・99章
比田が金を貸したがっていること妻から聞く
・100章
小遣いを渡す姉の夫から金を借りる矛盾に苦笑
・101章
原稿を書き上げ百円を作る。比田に取次を頼む
・102章
島田の証文を受け取るが片付いたとは思えない

感想

「道草」は前作が「こころ」で次作が「明暗」。
最高傑作の呼び声の高い作品と
未完の絶筆に挟まれていることもあり、
正直、影が薄い作品だと思います(^^;

内容の方も、正直、面白いとは
言えないです(^^;
盛り上がる場面が少ないですし、
日常生活がただ淡々と続いていく・・・
といった感じですから。
最初から最後までクライマックスだった
「こころ」が懐かしいです(^^;

メインストーリーは、主人公の教師・健三が
絶縁したかつての養父・島田と再会。
現在は貧しい島田に金を要求されて何度も
渡すが、最終的に再び絶縁するというもの。
そこに、島田以外の親族も次々に登場して、
その全員が健三の財産を当てにしてきます。
さらに、全編を通して
健三は妻と口論が絶えません。
つまり「道草」を簡潔にまとめると、
金の無心と夫婦喧嘩が延々と続く作品
ということになります(^^;

印象に残った場面を上げると、
・養父・島田との一連のやり取り
(再会→金要求→絶縁)
・妻・御住の予定よりも早い出産
(健三が子を取り上げる)
・親族(姉・兄・養母・義父)が
健三の財産を当てにする場面
・・・こんな所でしょうか。

ただ「道草」には、他の夏目漱石の作品とは
明らかに違う点があります。それは、
「道草」が作者の自伝的な作品である点です。
それこそが「道草」最大の特長でしょうね。

主人公のモデルは作者自身で、
主人公の妻や養父のモデルも、
作者の実在の妻や養父だと思われます。
作者は元々学校の先生で
後に専業の作家になるわけですが、
ちょうど教師から作家に転業する頃のことが、
この作品の中に書かれていると思います。
もちろん、内容は虚実織り交ぜて
でしょうけどね。それでも、人物設定や
主人公の心情に、現実と大きな乖離は
ないのではないかと思います。

文豪・夏目漱石がどういう人物で、
何を考え、どんな生活をしていたか。
そういうことを「道草」を読めば、
うかがい知ることができるわけです。
文豪の素顔に迫ることができますよね!

とは言ってもその内容は、
親族がみな自分の財産を当てにしていることに
ほとほと嫌気がさしていて、
さらに夫婦喧嘩ばかりしている・・・
ということになりますが(^^;
そういえば、作者の初期の作品である
「吾輩は猫である」の猫や
「三四郎」の三四郎も、
文句ばかり言ってましたっけ(^^;
夏目漱石ってそういう人だったんでしょうね~。

まとめますと「道草」は、
歴史に名を遺す文豪も
心の中は不満でいっぱいだった、
ということを知ることができる
貴重な作品だと言えますね(^^)

関連記事/広告

タイトルとURLをコピーしました