夏目漱石の小説「三四郎」についてです。
ネタバレもありますので、ご注意を!
三四郎とは
「三四郎」は1908年、
朝日新聞に連載された夏目漱石の小説です。
いわゆる前期三部作の最初の作品で、
後の二作は「それから」と「門」。
三部作の中で「三四郎」は
主人公の年齢が一番若く、
「失恋」がテーマになっています。
なお、三部作に話の繋がりはありませんが、
主人公の年齢が段々上がっていきます。
主な登場人物
・小川 三四郎(おがわ さんしろう)
主人公。23才。東京帝国大学の本科生。
福岡県出身で熊本県の高等学校を卒業後、
上京する場面から小説が始まる。
・お光
三四郎の幼馴染で九州在住。名前のみの登場。
母親同士が三四郎とお光の結婚を望む。
・里見 美禰子(さとみ みねこ)
三四郎が一目ぼれするヒロイン。三兄妹の末妹。
・里見 恭助(さとみ きょうすけ)
三兄妹の次兄で法学士。名前のみの登場。
・広田 萇(ひろた ちょう)
高等学校教師。里美三兄妹の亡き長兄の友人。
・佐々木 与次郎(ささき よじろう)
三四郎の友人でお調子者。
東京帝国大学の選科生で、広田の家に住みこむ。
・野々宮 宗八(ののみや そうはち)
広田の元教え子で、理科大学勤務の理学士。
三四郎とは同郷で7つ年上。
三四郎の母から息子の世話を頼まれる。
・野々宮 よし子
宗八の妹で、美禰子の友人。
・原口
画工。美禰子の肖像画を描く。
あらすじ
●1章
高等学校を卒業した小川三四郎は、
東京帝国大学に入学するため
九州から汽車に乗り上京中。
道中、既婚女性と相部屋で一泊するが、
何もしない純情な青年だ。
汽車で教師風の男性と出会い、
色々な話をして、東京に到着する。
●2章
三四郎に国元の母親から、
理科大学で働く野々宮宗八を頼れという
手紙が届く。
大学へ行き、野々宮を訪ねると、
科学の実験をしている風変わりな人物だった。
帰り道、池のほとりで目が合った女性のことが
とても気になる。
●3章
学校が始まり、
三四郎は佐々木与次郎と友人になる。
与次郎は広田という高等学校教師の家に
住んでおり、与次郎から、
野々宮は広田の教え子だと聞く。
三四郎は、大学の病院に入院している
野々宮の妹・よし子の見舞いに行く。
見舞いを終え病室を出ると、
以前池のほとりで目が合った女性がいて、
彼女によし子の病室の場所を聞かれる。
三四郎は、野々宮がこの前買っていたリボンを
彼女が結んでいることに気づく。
●4章
リボンのことが気になって仕方ない三四郎。
母親から手紙が来て、幼馴染のお光さんと
結婚してくれと書いてあるが、その気はない。
与次郎から教師の広田を紹介される。
広田は三四郎が上京する時、
汽車で話をした男性だった。
その広田の引っ越しの手伝いをするため、
三四郎、与次郎、野々宮が広田の新居へ。
そこには、三四郎が池と病院で会った女性、
里見美禰子も手伝いに呼ばれていた。
美禰子と野々宮の仲が気になる三四郎。
後日皆で団子坂の菊人形を見に行くことになる。
●5章
三四郎、美禰子、野々宮、よし子、広田の5人で
菊人形を見に行く。
三四郎と美禰子が二人きりになった時、
美禰子が三四郎に
「stray sheep(ストレイ・シープ=迷える子)」
とつぶやく。
●6章
三四郎に絵ハガキが届き、
表の宛名は迷える子とあり、
裏の絵はデビルと二匹の羊が描いてあった。
三四郎は、差出人が美禰子であり
二匹の羊は自分と美禰子だと悟る。
三四郎は、運動会で美禰子&よし子と会い、
美禰子から絵ハガキの返事を催促される。
●7章
三四郎は与次郎に二十円を貸してくれと頼まれ、
下宿代に国元から送ってもらった金を貸すが、
与次郎のことなので返してくれるのか心配だ。
三四郎は広田の家で、
広田の知人の画工・原口と会う。
原口は現在、美禰子の肖像画を作成中だった。
●8章
三四郎が与次郎に貸した二十円は、
美禰子が立て替えてくれることになった。
三四郎は初めて美禰子の家へ行くが、
金は実家から送ってもらうと言い、
美禰子の申し出を断る。
すると冷淡になる美禰子。
三四郎と美禰子は一緒に出掛け、
美禰子は銀行で三四郎に三十円をおろさせ、
それを三四郎に持たせる。
●9章
三四郎は美禰子から借りた三十円を、
二十円は下宿代、十円は生活費として使う。
三四郎は国元に三十円を請求し、
母は野々宮の元へ三十円を送る。
三四郎はシャツを買いに行った店で、
偶然、美禰子とよし子に会う。
借りた金の礼状を美禰子に出していたが、
そのお礼を彼女に言われる。
三四郎が美禰子にヘリオトロープと書いてある
香水をすすめると、彼女はすぐにそれを購入。
三四郎は野々宮宅へ三十円を受け取りに行き、
よし子に縁談が来ていることを知る。
●10章
三四郎が原口の家を訪ねると、
原口は美禰子をモデルにして
彼女の肖像画を描いていた。
肖像画の中の美禰子は、三四郎と池で
初めて出会った時と同じ格好をしている。
三四郎は三十円を美禰子に返そうとするが、
断られる。
美禰子は疲れている様子。
三四郎は思い切って、お金を返すためではなく
「あなたに会いにきた」と言う。
しかし、車に乗った男性が美禰子を迎えにくる。
●11章
三四郎は与次郎に、
美禰子のことを聞いたかと言われる。
三四郎は何をと問い返すが、
与次郎は人に呼ばれていってしまう。
●12章
インフルエンザで寝込む三四郎は、
美禰子が嫁に行くと言う話を
与次郎から聞かされる。
見舞いに来たよし子は、
美禰子の縁談がまとまり、
相手は自分の縁談相手だった人だと告げる。
回復した三四郎は美禰子と会い、
借りていた三十円をようやく返す。
美禰子はヘリオトロープの香りがするハンカチを
三四郎の目の前に差し出す。
「結婚するそうですね」と言う三四郎に対し、
美禰子は「我はわが愆(とが)を知る。
わが罪は常にわが前にあり」とつぶやく。
●13章
三四郎が九州に帰省している間に、
美禰子の披露宴は終わっていた。
三四郎は、広田、野々宮、与次郎と一緒に
原口の展覧会へ行く。
そこには美禰子の肖像画「森の女」が
飾ってあり、美禰子は夫と一緒に見に来ていた。
三四郎は与次郎に絵の感想を問われ、
「森の女」という題が悪いと言い、口の中で
「ストレイ・シープ」と繰り返すのだった。
感想
●全体の印象
ストーリーは、
田舎から上京してきた純情な青年・三四郎が、
都会の美しい女性・美禰子に恋をするけど、
失恋に終わるというもの。
淡々と物語が進んでいく感じです。
三四郎と美禰子のすれ違いが
切ない場面もあることはありますが、
全体的には淡々としています(^^)
怒涛の盛り上がりを楽しみたい方は、
次作「それから」をお勧めします。
向こうは「略奪愛」がテーマなんで、
終盤の盛り上がりがすごいです(^^)
「三四郎」はあくまで
「青春時代のさわやかな失恋」っていう
感じですから(^^)
●三四郎と美禰子
三四郎は、美禰子を初めて見た時
(この時は目が合っただけ)に一目ぼれして、
その後、病院で偶然ばったりと会い、
そして、共通の知人の引越しを手伝った時に
三度目の再会をして、親しくなっていきます。
運命的ですよね~(^^)
美禰子も三四郎に対して好意を持っていたはず。
自分と三四郎を意味する、二匹の子羊が
描かれた絵葉書を三四郎に送ったり、
三四郎が何気なく選んだ香水を即購入して
それをハンカチにつけていたりしてますからね。
ただ、そのハンカチを三四郎に見せた時には、
既に自分の結婚が決まっていました。
じゃあ何で見せるんだよと
突っ込みたくなりますが(^^;
そのあたりは女心の難しさなのかな?
もっと早く告白してよ!っていう
気持ちだったのかもしれませんが、
純朴青年の三四郎にそれは無理(^^;
作中で、美禰子の心理描写は一切ないので、
彼女が考えていることは分かりにくいです。
最終的になぜ友人であるよし子の縁談相手と
結婚したのか、さっぱり分かりません(^^)
自分のことを「迷える子羊」に例えたり、
「わが罪は常にわが前にあり」って
難しいことを言ったりしているので、色々と
悩んだり思うことはあったんでしょうけど、
そのあたりの説明がもう少しあれば・・・
と思いました。
●特に印象に残ったこと
印象に残ったのは、物語の冒頭、
三四郎が上京の途中に名古屋で一泊する場面と、
「ストレイ・シープ」という言葉。
冒頭の場面は、汽車の中で知り合った女性と
一緒の部屋に泊まるという
ドキドキの展開(^^)
この女性は結婚していて子供もいるんですが、
三四郎が風呂に入っていると
何と自分も入ってくるという大胆さ!
「草枕」のヒロイン・那美さんも
そんなことをしてたっけ(^^)
まぁ、あっちは偶然で
こっちは確信犯ですけど(^^)
明治の女性はよく分かりませんね(^^;
三四郎は、そんな風呂をそそくさと出て、
夜も同じ部屋で寝ているのに何もしない。
そして彼女に別れ際、
「あなたはよっぽど度胸のない方ですね」って
ニヤリと笑いながら言われます(^^)
三四郎の純情さを読者に伝える、
冒頭の名エピソードですね~。
ちなみにこの場面が、小説の中で
一番盛り上がる場面だと思います(^^)
「ストレイ・シープ」は、
迷える子羊という意味で、元は美禰子が三四郎に
今の二人を表して言った言葉。
ラストシーンで三四郎が
「ストレイ・シープ」と繰り返しますが、
失恋後の三四郎にとっても、今の自分の気持ちを
表した言葉なんだと思います。
名古屋での一泊とストレイシープ、
この2つが印象に残る作品でした(^^)