夏目漱石の小説「坑夫」についてです。
ネタバレもありますので、ご注意を!
坑夫とは
1908年に発表された
夏目漱石の長編小説「坑夫」。
作者が職業作家として初めて執筆した
「虞美人草」に続く作品で、
いわゆる前期三部作の直前の作品になります。
内容は、主人公の男性が過去、
坑夫になるため銅山へ行った時の体験談を、
回想という形でひたすら語るというもの。
実際に作者がある男性から聞いた体験談が
元になっているそうです。
まぁ、いくら文豪でも想像だけで書ける
内容ではないですからね~。
今風に言えばノンフィクション風の作品で、
作者にとっては異色作と言えるでしょうね。
主な登場人物
・主人公
19歳。許嫁がいるのに他の女性を好きになる。
そのことで思い悩み家出するが、
坑夫にならないかと誘われ、銅山へ行く。
本作は、その時の主に5日間の出来事を、
後年の彼が回想するという形で進む。
・澄江(主人公の回想でのみ登場)
第一の少女=主人公が好きな女性。
主人公が家出しても
(主人公予想では)平然としている。
・艶子(主人公の回想でのみ登場)
第二の少女=主人公の許嫁。
主人公が家出して
(主人公予想では)泣いている。
・長蔵
斡旋屋。家出した主人公に声をかけ、
銅山に連れていく。金儲けだけが目的の人物。
・原 駒吉
飯場頭(坑夫の隊長)。長蔵から主人公を
預かる。常識のある人物として描かれる。
・初さん
坑夫。原に命じられ、主人公を銅山の奥深くへと
案内する。銅山から引き上げる途中で、
主人公を置き去りにする。
・安さん
坑夫。銅山内で出口を探しさまよう主人公と
会う。彼との出会いが、主人公の運命を変える。
あらすじ
●1日目
昨夜、家出をした主人公。
あてもなく、東京から北へ向かって
ずっと歩いていると、長蔵という男性に
「坑夫にならないか」と声をかけられる。
了承して長蔵と一緒に汽車に乗り、
下車後さらに北に向かう道中、
赤い服を着た若者(赤毛布)と
野生児風の少年(小僧)二人が、
主人公と同じように長蔵から坑夫に誘われ、
同行する。
長蔵の知り合いがいる山中の小屋で夜を明かす。
●2日目
翌朝、銅山に向けて出発し、昼、到着。
長蔵は飯場頭の原に主人公を預け、
赤毛布と小僧を別の飯場に連れて出ていく。
主人公は原から
「あなたのような人に坑夫は務まりませんよ」
と言われ、その丁寧な語り口に感激するが、
帰る家もないので坑夫をやらせてくれと頼む。
原も了解し、
明日案内係と一緒に銅山へ行くことに。
坑夫たちの寝泊りする広間で、
坑夫たちから口々に馬鹿にされ、
南京米のあまりの不味さに閉口し、
病人の坑夫や坑夫の葬式を目撃し、
南京虫に寝ている時たくさん噛まれ、
・・・散々な体験をして夜は更ける。
●3日目
翌朝、案内係の初さんに連れられ、
「ここが地獄の入り口だ」と言われ、
銅山に入る。
初さんが「地獄の三丁目」と呼ぶ第一見張所を
過ぎると、坑道の中が突然狭くなる。
四つん這いになったり、仰向けになったり
しながら、どんどん先へ進んで降りていく。
途中、ダイナマイトの音に驚き、
十五段の梯子がかかった穴を
苦しみながらも降りて進んでいくと、
とうとう、最奥の八番坑に到着。
そこでも、水に腰までつかりながらも、
坑夫たちは穴を掘る作業をしていた。
明日からここで働くのかと尋ねると、
新人はここまでは来ない、
大抵二番坑か三番坑で働くと言われ、安心する。
帰り道。
十五段の梯子を今度は登ろうとするが、
梯子を前に足が動かないので、少し休憩。
休んだ後、心身共に限界を迎えながらも、
もう華厳の滝に身を投げてしまいたいと
思いながらも、何とか梯子を登りきる。
そして入口を目指すが、
先を行く初さんの姿が次第に遠くなり、
とうとう完全にはぐれてしまう。
途方に暮れていた時、
安さんという一人の坑夫と出会う。
彼は自分の身の上話をし、ここは君のいる
場所ではない、東京へ帰れと諭す。
安さんの教養あふれる言葉に大いに感動し、
また相談に行くと約束して、
安さんに出口まで送ってもらう。
外で待っていた初さんと一緒に
飯場頭の原に会いに行き、
原に「どうです」と問われ、
「やっぱりいるつもりです」と答える。
すると原から、規則だから
明日の朝に健康診断を受けるように言われる。
その後、約束通り、安さんに会いに行くと、
「いつ帰る」と聞かれ、
「帰らない事にしました」と答える。
安さんは長くいちゃいけないよと言う。
夜、父・母・艶子さん・澄江さんらのことを
考えながら、また南京虫に噛まれながら、
眠りにつく。
●4日目
朝、健康診断を受けに病院へ行く。
診断結果は「気管支炎」。
坑夫として働けないことになる。
原になんとかここに置いてくれと頼むと、
明日までに考えてみようと言われる。
●5日目とその後
朝食後、原の所へ行くと、
飯場の帳附の仕事をやらないかと言われる。
坑夫たちが買った様々な品物を
帳面へ書き込む仕事だ。
翌日から月給四円で帳附の仕事を始める。
その仕事を五ヵ月間無事に勤めて、
東京に帰った。
感想
有名な作品ではありませんし、
正直あまり期待していなかったんですが(^^;
想像以上の良作でした。
もっと早く読んでおけばよかった(^^)
とにかく、引き込まれる内容で、
一気に読めます。
そんなに長文でなく、難しい言葉も少なめ、
複雑な人間関係もありませんから(^^)
ただ、内容は決して明るいものではありません。
タイトルに「坑夫」とある通り、
坑夫という仕事の過酷さが
嫌というほど伝わってきます。
モデルはおそらく足尾銅山でしょうけど、
ここでの仕事も生活も、
どれだけ大変なんだと・・・。
当時の社会の底辺にいる人々の
生活の過酷さが垣間見れますね。
一番印象に残っているのは、
主人公が銅山の奥深くへ進んでいく場面です。
実質、ここが物語のクライマックスだと
思います。
作中で銅山のことを
「地獄の入り口だ」と表現していますが、
本当に地獄の奥深くへ進んでいく感じ。
最終的に一体どんな場所へ行きつくんだろうと、
ドキドキしながら読み進めました。
あまり知られていない作品だと思いますが、
なかなか他で目にできる内容ではありませんし、
お勧めできる作品です(^^)