夏目漱石の「虞美人草」を読了!あらすじや感想です!

小説 小説

夏目漱石の小説「虞美人草」についてです。

ネタバレもありますので、ご注意を!

虞美人草とは

夏目漱石の小説「虞美人草」は、
1907年に朝日新聞紙上で連載された
全19章から成る長編小説で、
作者が教職を辞めて職業作家として執筆した
初めての作品になります。

作中では、子どもの結婚をめぐって
4つの家で起こる人間模様が描かれています。

植物の虞美人草=ヒナゲシは、
「虞美人」という女性が自害した後に
彼女の血からこの花が咲いたという中国の故事が
その名の由来だと言われています。

小説中でも一人の女性が命を落としますが、
彼女が「虞美人」なんだと思います。

主な登場人物

・主な登場人物は、
甲野・宗近・小野・井上の4家の人々。
・甲野と宗近は親戚同士。
・甲野は裕福、小野と井上は貧しい。
・井上は京都、他は東京在住。
・甲野藤尾と宗近一、小野清三と井上小夜子は、
物語開始時点で事実上結婚の約束をしている。

<甲野家>
・甲野欽吾(こうの きんご/27歳/兄/哲学者)
継母と妹の意向を忖度し、
家督を妹に譲ろうとする。
・甲野藤尾(こうの ふじお/24歳/妹)
後妻の子。容姿端麗で気が強い。
宗近ではなく小野との結婚を望む。
・母
後妻で欽吾の継母。
実子の藤尾に家を継がせたい。
・父(海外で仕事中に死亡)
生前、藤尾を宗近に嫁へ出すとほのめかす。

<宗近家>
・宗近一(むねちか はじめ/28歳/兄)
欽吾の親友。外交官になって藤尾と結婚したい。
・宗近糸子(むねちか いとこ/22歳/妹)
しっかり者。
欽吾のことが好きで彼の一番の理解者。
・父
世話好きの和尚。

<小野家>
・小野清三(おの せいぞう/27歳/文学者/秀才)
欽吾と一の同窓で博士論文執筆中。
藤尾に惹かれる。

<井上家>
・井上小夜子(いのうえ さよこ/21歳/娘)
東京にいる小野を5年間想い続ける。
控え目な性格。
・井上孤堂(いのうえ こどう/父)
小野の恩師。
娘と小野の縁談をまとめるため東京へ。

あらすじ

●1章<京都観光①>

甲野欽吾と宗近一は
東京から京都へ観光にやってきた。

意気揚々と比叡山を登る宗近一に、
甲野欽吾は嫌々ついていく。

●2章<甲野宅>

小野清三と甲野藤尾がいい雰囲気。

ただ、甲野藤尾がなぜ兄たちと一緒に
京都へ行かなかったのか問うと、
小野清三は口ごもる。

●3章<京都観光②>

京都三条の宿屋・蔦屋で、
隣家から娘の奏でる琴の音が聞こえる。

甲野欽吾は家を継ぐのが嫌で、
妹に継いでほしいと思っている。

宗近一は生前の甲野父と、
甲野藤尾の金時計をもらう約束、
すなわち彼女を嫁にもらう約束を交わしていた。

●4章<小野宅>

小野清三の元に恩師・井上孤堂から手紙が届く。

井上孤堂は琴を弾く娘・小夜子と一緒に、
京都から東京へ引っ越してくるとのこと。

恩師の娘とは結婚の約束を交わしており、
甲野藤尾を想う小野清三は憂鬱になる。

●5章<京都観光③>

京都観光を楽しむ甲野欽吾と宗近一。

二人は保津川下りを終えると、
宿屋・蔦屋の隣家で琴を弾いていた娘が
父親らしき人物と一緒にいるのを見かける。

●6章<甲野宅>

甲野藤尾と宗近糸子が話していると、
小野清三が訪ねてくる。

宗近糸子は、京都旅行中の兄から手紙があり、
宿屋・蔦屋の隣家の琴を弾く娘のことが
書かれていたことを話す。

それを聞いた小野清三は様子が変わる。

●7章<京都→東京>

甲野欽吾と宗近一が
京都から東京へ帰るために乗った汽車に、
井上孤堂と小夜子の父娘も
東京へ引っ越すために乗車していた。

父と娘はこれから縁談が進むはずの
小野清三の話をして心を弾ませる。

甲野欽吾と宗近一は車内で井上父娘を見かけ、
娘が宿屋・蔦屋の隣家で琴を弾いていた
あの娘だったことに気づく。

●8章<甲野宅、宗近宅>

甲野藤尾は母に宗近一との結婚の意思を問われ、
あんな趣味のない人はいやだと答える。

京都から戻った甲野欽吾と宗近一は、
宗近の父に、二人とも早く嫁を貰えと言われる。

●9章<井上宅>

井上の新居で話す小野清三と井上小夜子。

しかし小野清三は早々に帰りたがり、
父が戻るまではと井上小夜子は引き止めるが、
彼は家を出る。

井上小夜子は落ち込む。

●10章<宗近宅>

宗近父と甲野母は子どもたちのことを話す。

甲野母は息子に嫁を貰ってほしいが、
実の母で無い自分からは強く言えないので、
宗近父から話してくれないかと頼む。

同刻、宗近糸子は兄の宗近一に、
甲野藤尾は小野清三のことが好きだから
やめておけと忠告するが、兄は取り合わない。

●11章<東京博覧会>

甲野兄妹と宗近兄妹の4人で博覧会に出掛ける。

4人は休むために入った茶屋で、
井上父娘と一緒にいる小野清三を目撃する。

小野清三を自分のものだと考えている
甲野藤尾の心中は、穏やかでない。

●12章<小野宅、甲野宅>

井上小夜子は小野宅を訪れ、
博覧会に連れていってもらった礼を言い、
一緒に買い物に行かないかと誘うが、
小野清三はこれから出かけるからと断る。

小野清三は甲野宅を訪れるが、
昨晩博覧会で娘と一緒にいるところを見たと
甲野藤尾に暗に言われ、冷たくされる。

●13章<宗近宅>

甲野欽吾が宗近糸子に、
あなたは嫁に行くのはもったいないと言う。

●14章<井上宅>

井上宅へ向かう小野清三は
道中、宗近一と会い、井上小夜子の話をする。

小野清三は井上宅で、
井上父に娘と結婚するように言われ、
もう二三日待って下さいと答える。

●15章<甲野宅>

小野清三を婿に迎えると決める甲野藤尾と母。

甲野欽吾は、妹の結婚相手は
小野清三よりも宗近一の方がいいと言うが、
妹の意思は固いので、一応納得はする。

甲野欽吾は、家と財産を全て妹に譲る。

●16章<宗近宅>

宗近一は、外交官試験に合格したので
甲野藤尾を嫁にもらうと父と妹に宣言し、
甲野宅へ向かう。

●17章<甲野宅>

小野清三は友人の浅井に、
井上宅に行って自分と井上小夜子の結婚を
断ってくれないかと頼んだ後、甲野宅へ。

話をしていた甲野欽吾&宗近一は、
甲野藤尾&小野清三と顔を合わしたので、
甲野欽吾の自室へ行き鍵をかける。

甲野欽吾は、妹はダメだぞと言った後、
自分の真意を宗近一に打ち明ける。

表向きは母に逆らっているが、
内実は母の希望通りにしてやるために、
財産を妹にやり家を出るのだと。

自分は母や妹のために
それだけの犠牲を払っているのだと。

それを聞いた宗近一は涙を流し、
お前のことを一番よく理解している
妹の糸子を嫁に貰ってくれと懇願する。

●18章<井上宅、甲野宅>

井上宅を訪れた浅井は頼まれた通り、
小野清三は博士になる勉強をするため
娘さんと結婚はできないが、
財産援助はすると言っていると告げる。

それを聞いた井上父は激怒し、
井上小夜子は泣き崩れる。

驚いた浅井が宗近宅に行って事情を話すと、
宗近一は小野宅に、
宗近父は井上宅に、
宗近糸子は甲野宅にそれぞれ向かう。

小野宅。宗近一が小野清三に
お前は真面目に生きなきゃダメだとただすと、
小野清三は井上小夜子と結婚すると言うので、
井上小夜子を呼ぶ使いを出す。

井上宅。宗近父が井上父娘に
今息子が小野清三を説得中だと話していると、
井上小夜子を呼ぶ使いが届く。

そして、宗近一、小野清三、井上小夜子の3人は、
小野清三と井上小夜子が結婚することを
甲野藤尾に直接伝えるため、甲野宅へ向かう。

甲野宅では、甲野欽吾が母の前で父の額を外し、
家を出ようとした。

そこへ宗近糸子が到着し、甲野母と言い争う。

続いて、宗近一、小野清三、井上小夜子が到着。

そして、小野にデートの約束をすっぽかされた
甲野藤尾が、極上の怒りと共に帰ってくる。

宗近一は甲野藤尾に、
小野清三の妻だと井上小夜子を紹介。

小野清三も井上小夜子を妻だと言い、
甲野藤尾に謝罪する。

錯乱状態の甲野藤尾は、
結婚相手に渡す予定だった金時計を
それならばと宗近一に渡すが、
宗近一は受けった金時計を
大理石に思いっきり投げつけて破壊。

甲野藤尾は精神が崩壊し、硬直して倒れる。

●19章<甲野宅>

北枕で眠る甲野藤尾。

甲野欽吾は「悲劇はついに来た」と
日記をしたため、二か月後、
その一説をロンドンの宗近一に贈る。

それを読んだ宗近一はこう返した。

「ここでは喜劇ばかり流行る。」

感想

小説家・夏目漱石の第一作ということで、
すごく作り込んでありますね~。

これまでの作品と違って(^^;

「吾輩は猫である」とか「坊っちゃん」は、
いきなり書き始めて
突然終わった感じがありますが(^^;
この作品は違います。

最初から最後まで
物語をどういう風に進めるのか、
登場人物の設定も含めて、
事前に相当考えてから書き始めたはず。

漱石の本気が読めますよ~(^^)

なので、読みごたえは十分にあります。

物語の序盤、京都旅行中に偶然見かけた
父娘がキーパーソンだったことや、
クライマックスの怒涛の盛り上がりなどは、
特に印象に残る場面だと思います。

ただ、内容には疑問点もあります。

この小説はザックリ言うと、
悪い母娘を周りの人間(主に家族)が
懲らしめるっていうストーリーなんですが、
その母娘がそもそも悪くないんですよね(^^;

母は、息子に早く嫁を貰えって言っただけだし、
娘なんて、結婚相手を親が決めた相手から
別の相手に乗り換えただけ。

それだけのことなのに、
娘なんて事実上の公開処刑
(比喩じゃありません)ですからね。

そりゃあ、この母娘が結託して、
息子を家から追い出そうとしたり、
財産を奪い取ろうとしたり、
娘が二股かけて浮気をしたり
っていうんならそれは悪いですけど、
そんなことは一切ありません。

大学を出たあと家にこもりっきりの
息子の心配をして何が悪いのか。

暑苦しい体育会系の四角い男から
イケメンの秀才学者に乗り換えて
何が悪いのかっていうことです(^^)

兄貴は妹が亡くなったことを
「この悲劇は予想していました」
って言うけど、いやいや、違うでしょ(^^;

予想していたんなら、
そうならないように努力しろよ(^^;

腹違いとはいえ、あんたの妹やで(^^;

母や妹とちゃんと話さえしていたら、
妹の悲劇はなかったはず。

さらに、元婚約者を助けると言いつつ、
プライドの高い彼女を家族の面前で罵って
死に至らしめた宗近一なんて、
目の前で最愛の娘を亡くした母に向かって
「おばさん。仕方がない。諦めなさい」
ですから(^^;

お前が真の悪だよ(^^;

どう考えても、
勧善懲悪される母娘より、
勧善懲悪する周囲の人間の方が
悪いんですよね(^^;

というわけで、読みごたえはあるんですが、
読後感はあまりよくない作品でした(^^;

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コメント

  1. 匿名 より:

    非常に端的でわかりやすかったです。特に人物の関係が気持ちよくまとめられていてこの作品の理解がより深まりそうです(*´ω`*)

    • SAKA より:

      コメントありがとうございます!
      虞美人草は夏目漱石がプロの小説家として
      書いた最初の作品で、よく作り込まれている
      印象です。内容も現代の昼ドラ的で、
      今読んでも面白い作品だと思います(^^)

  2. じょろりんこ より:

    実は「虞美人草」を読んだことがありません。
    母を10年近く自宅介護した末に母が亡くなりまして、
    それ以来、私(男です)なりに生と死について考える機会が増え、
    ある日の深夜、NHKBSプレミアムで再放送された
    『阿修羅のごとく』を見る中で、「虞美人草」という本について
    触れられる場面がありました。
    調べると「ここでは喜劇ばかり流行る」という一節があり、
    それはドラマ『阿修羅のごとく』の結末につながるのですが、
    当時に、母を失って以来、自分の中で生と死についての自問自答に
    欠けていたワンピースをピッタリと満たしてくれるものでした。

    • SAKA より:

      コメントありがとうございます。
      「ここでは喜劇ばかり流行る」は
      「虞美人草」最後の結びの言葉。
      印象に残る一節ですよね。
      「虞美人草」は青空文庫等で
      無料でも読めますので、
      よろしければご覧下さい(^^)

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