夏目漱石の小説「それから」についてです。
ネタバレもありますので、ご注意を!
それからとは
「それから」は、1909~1910年にかけて
朝日新聞上で連載された夏目漱石の小説です。
いわゆる前期三部作の真ん中の作品で、
「三四郎」「それから」「門」と続きます。
内容は、主人公の男性が
夫のいる女性を愛してしまうというもので、
いわゆる「略奪愛」がテーマです。
1985年に、松田優作さん主演で
映画化もされています。
主な登場人物
<長井家>
・父…得
・母…既に死去
・第一子(男)…誠吾
・第二子(男)…既に死去
・第三子(女)…名前は不明
(外交官の妻でフランス在住)
・第四子(男)…既に死去
・第五子(男)…代助
・長井 代助(ながい だいすけ)
主人公。30歳独身。仕事も勉強もせず、
父の用意した家と金で暮らす。
・長井 得(とく)
代助の父で実業界の成功者。幼名は誠之進。
・長井 誠吾(せいご)
代助の兄で父の関連会社の重役。妻と子が2人。
・長井 梅子(うめこ)
誠吾の妻。義弟・代助のことを気に掛ける。
・長井 誠太郎(せいたろう)
誠吾と梅子の長男。15歳。代助に懐く。
・長井 縫(ぬい)
誠太郎の3歳下の妹。代助に懐く。
・門野(かどの)
代助の家の書生。
・平岡 常次郎(ひらおか つねじろう)
代助の中学時代からの友人。
京阪地方へ転勤していたが、
失業して三年ぶりに東京へ戻る。
・平岡 三千代(みちよ)
ヒロイン。三年前、代助の仲介で常次郎と結婚。
子を亡くしてから、心臓が悪い。
要約
代助は学生時代、三千代が好きで、
三千代も代助が好きだった。
しかし、仕事をしない自分よりも
銀行務めの平岡の方が
三千代を幸せにできると考え、
平岡と三千代の結婚を取り持つ。
平岡が京都へ転勤して以降、
夫妻とはしばらく疎遠になっていたが、
平岡は失業して東京へ戻る。
平岡には借金もあり、
三千代は子供を亡くして以降、病気がちで、
さらに夫婦仲も上手くいっていない。
代助は、幸せな夫婦生活とは程遠い状況に、
二人の結婚を取り持ったことを後悔する。
代助には、親の会社の行く末にも関わる、
資産家の娘との見合い話が進んでいたが、
三千代のことが気にかかり、
結婚を承諾できない。
最終的に代助は三千代を選び、
三千代も代助を受けいれる。
その結果、代助は平岡と絶交、
家族にも絶縁され、それまでの
実家に頼る生活は続けられなくなり、
仕事探しを始める。
あらすじ
●1章
代助は二通の郵便を書生・門野から受け取る。
平岡からの今着いたというハガキと、
父からの会いに来いという封書だ。
代助は20歳ぐらいの女性の写真を見つめる。
●2章
代助の家に平岡が来る。
代助と平岡は中学時代からの友人だったが、
平岡(銀行勤務)が京阪地方へ転勤となり、
最近は疎遠になっていた。
平岡は失業して借金もある状態で帰京しており、
代助の兄の会社で雇ってもらうか、
それが無理なら新聞社に入るつもりだ。
代助は平岡の妻・三千代のことを尋ねる。
平岡と三千代は子供を亡くしていて、
三千代は体調があまりよくない。
三千代は代助が結婚しないのか気にしていた。
●3章
代助の実家には父、
兄夫婦と2人の子が住んでいた。
実家から外に出ているのは、代助と
外交官に嫁いで今は西洋在住の姉。
母とあと2人の兄はすでに亡くなっていた。
代助は苦手な父から、いつまでも遊んでいないで
何かやってみろと言われ、
兄嫁の梅子からは縁談の話を聞かされる。
代助の見合い相手は
父の命の恩人のひ孫に当たる人物で、
佐川という資産家の家の娘だった。
●4章
代助の家に三千代がやってくる。
平岡と三千代は明日、今いる宿屋から
門野が探した新居へ引っ越す予定だ。
代助は先日平岡を訪ねた時、
平岡が三千代を叱っていたことが気になる。
三千代は代助に五百円を貸してくれと頼む。
代助はこんなことを三千代に頼ませる、
今の平岡の境遇を不憫に思う。
●5章
平岡と三千代は新居に引っ越した。
代助は三千代のため、
兄の誠吾に金を貸してくれと頼むが断られる。
●6章
代助は平岡の家へ行き、平岡と酒を酌み交わす。
●7章
代助は兄嫁の梅子に金を借りにいくが断られる。
父と兄は最近とても忙しいようだ。
梅子は縁談を受けない代助に、
誰か好きな人がいるのかと問う。
代助の頭には三千代の名が浮かぶ。
●8章
社会で大地震や日糖事件が起こる中、
梅子から二百円の小切手入りの手紙が届く。
代助はその金を持って平岡の家へ。
平岡は不在で三千代に金を渡す。
後日、平岡が代助の家へやってきて礼を言う。
平岡は新聞社に勤めるようだ。
代助は平岡が変わってしまったことや、
自分がかつて平岡と三千代の結婚を
取り持ったことを思案する。
●9章
代助は父に呼び出され、
これからどうするのか、なぜ結婚しないのか、
きつく問い詰められる。
●10章
代助の家に三千代がやってくるが、
息が切れていて、体調が悪いようだ。
三千代は代助から受け取った二百円を、
借金の返済ではなく
生活費に使ったことを詫びる。
●11章
代助は梅子に呼び出され
一緒に芝居を見に行くが、
そこには見合い相手の佐川の娘がいた。
兄や兄嫁にだまされたと感じた代助は、
家族と疎遠になることを予感する。
●12章
代助が三千代に会いに行くと、
三千代は指輪を売っていた。
代助は三千代に持ち合わせの金を渡す。
代助と佐川の娘の顔合わせが行われた。
●13章
代助は三千代や平岡と会って話をし、
夫婦仲が上手くいっていないことを悟る。
●14章
代助は縁談を断る決心をする。
父に会いに行くが不在だったので、梅子に、
縁談を断り好きな女性がいることを伝える。
代助は三千代を家へ呼び、
自分の想いを打ち明ける。
三、四年前にそうしなかったことを詫びながら。
三千代はどうしてあの時、
自分を捨てたのかと泣く。
代助は、平岡は三千代を愛しているのか、
また、三千代は平岡を愛しているのかと問う。
しばらくの沈黙の後、三千代はこう答えた。
「覚悟を極めましょう」
三千代が帰宅した後、
代助は腹の中で「万事終る」と宣告する。
●15章
三千代に全てを告白した代助は
すっきりとした心持ちだった。
代助は実家に行って父と会う。
父は自分のこれまでの苦労を伝えて、
会社のためにも資産家の娘と結婚してくれと
懇願するが、代助は断る。
三千代のことは言えなかった。
父は代助に、
もうお前の世話はしないと言い放つ。
●16章
実家からの援助がなくなることにおびえる代助。
代助は三千代に会い、自分と一緒になれば
物質的に苦労をかけることになると言うと、
三千代は覚悟は極めていると告げる。
代助は自分と三千代の関係を打ち明けるために、
ついに平岡と会う。
代助は平岡にこれまでのいきさつを
一時間以上かけて話し、
三千代を自分に譲ってくれと頼む。
平岡は承知するが、代助に絶交を伝え、
三千代の病気が治ってからだと言う。
●17章
代助は三千代に会えずに悶々とした日々を送る。
兄の誠吾が代助に会いにやってくる。
誠吾は平岡という男から父宛に手紙が来たと
言って、代助に手紙を見せる。
誠吾は代助に
そこに書いてあることは本当かと問いただす。
「本当です」と答えた代助に誠吾は、
父からの一生涯の絶縁を伝え、
自分ももう会わないと告げる。
代助は仕事を探しに家を出ていった。
感想
「略奪愛」がテーマということで、
盛り上がりがすごいですね~。
物語前半は淡々としていますが、
主人公・代助が見合い話を断って
人の妻・三千代を奪いとると決断して以降は、
怒涛の盛り上がりを見せてくれます(^^)
まず、世話好きの兄嫁に自分の想いを伝え、
続いて三千代に愛の告白をし、そして
折り合いの悪い父に会って見合い話を断り、
ついに三千代の亭主・平岡に
妻を譲ってくれと直談判し、
最終的に、家族との絶縁を兄から告げられる。
いや~、これは盛り上がりますわ(^^)
特に、三千代への告白と平岡との直接対決は、
手に汗握る場面でした(^^)
気になるのは、物語の後、代助と三千代は
「それから」どうなったんだっていうこと。
略奪愛を成就させる代わりに
全てを失った二人が、
果たして幸せになれたのかどうか、
そこの記述がないんですよね。
それを読者に考えさせることも、
「それから」というタイトルの意味に
込められているんでしょうけど、
そこは書いてほしかったなと思います。
とにかく、すごく盛り上がる小説でした(^^)
最後に、代助の名セリフを4つ選んでおきます。
名セリフ①
「姉さん、私は好いた女があるんです」
自分の想いを初めて他人に打ち明けた時の言葉。
この兄嫁の姉さんは、代助の味方になって
色々と世話を焼いてくれたんですけどね~。
まぁそれは代助を理解していたからでは
なくて、自分の世話焼き魂を満足させるため
ですけども(^^;
名セリフ②
「僕の存在には貴方が必要だ。
どうしても必要だ。」
三千代にとうとう告白した時の言葉。
「旦那と別れて僕と一緒になって下さい」
っていう意味になりますね~。
これに対する三千代の返答が
「仕様がない。覚悟を極めましょう」
この「覚悟」には命を捨てることまで
含まれます。何と言うか、
とにかく凄まじいやりとりです(^^;
名セリフ③
「平岡、僕は君より前から
三千代さんを愛していたのだよ」
三千代との関係を平岡に打ち明けた時の言葉。
代助、かっこいい(^^)
名セリフ④
「門野さん。僕は一寸職業を探して来る」
三千代との不倫が家族に伝わり、
家族から絶縁された後、書生に告げた言葉。
代助、かっこ悪い(^^;
三千代を選ぶ=勘当される
ということは分かっていたわけで、
三千代に告白する前に自立していれば
(せめてその努力をしていれば)、
代助にもっと共感できたのに(^^;
コメント
特別な人ですなくごくごく平凡な人を対象に、書かれて居る作品だと思いました。そんな人達の事でも小説の代々になるのかと思いました。一文すると見逃してしまいそうな、物語だと思います。それからと言う、小説に惹かれて読んでみたくなりました。今年81歳に成る老女です。
コメントありがとうございます。
「それから」は夏目漱石が作家として
一番脂がのっていた頃の作品だと思います。
これより後の後期三部作の頃になると
体調を崩しがちになりますからね。
物語後半に向けてどんどん盛り上がっていくので
引き込まれる作品だと思います。