夏目漱石の「野分」を読了!あらすじや感想です!

小説 小説

夏目漱石の小説「野分」についてです。

ネタバレもありますので、ご注意を!

野分とは

夏目漱石作「野分」は、1907年に
雑誌ホトトギスに掲載された中編小説で、
全12章から成ります。

冒頭の一文は「白井道也は文学者である」。

この道也先生と、彼のかつての教え子である
高柳君を中心にして、物語は進んでいきます。

道也先生は教師を辞め
物書きとして生きる道を選びますが、
ちょうど作者自身がそういう道を
選んだ時期に書かれた小説ですし、
作者本人が主人公に投影されていると思います。

タイトルの「野分」とは、台風の古い呼び方で、
雑節の二百十日(立春から210日目)の頃に
野原の草を吹き分ける強風の意。

作者が「野分」の前に発表した作品も
「二百十日」でした。

この2作はタイトルだけでなく、
内容的にも重なる部分が多々あります。

ほぼ会話だけで成り立つ異色作「二百十日」を、
きちんとした形の小説にしたのが
「野分」といった感じでしょうか。

ちなみに「野分」の読み方は、
「のわけ」でも「のぶん」でも「やぶん」でも
なく、「のわき」だそうです(^^)

あらすじ

●1章

道也先生は大学を8年前に卒業。

越後、九州、四国の3か所で教師をするが、
いずれも人と揉めて退職。

東京に戻って物書きを始める。

妻はそのことをよく思っておらず、
普通に働いてほしいと思っている。

●2章

高柳君と中野君は、この春、
同じ大学を卒業した高校時代からの親友。

高柳君は貧乏で人と関わらない皮肉屋。

中野君は裕福で円満な性格。

何もかも正反対な二人だが、なぜかウマが合う。

高柳君は中学時代、道也先生の教え子だったが、
ある教師に扇動されて
道也先生を中学から追い出した過去があった。

高柳君はそのことを悔いていると中野君に語る。

●3章

道也先生が中野君の家を訪ねる。

雑誌「江湖」に載せる話を聞くためだ。

中野君は恋愛論を大いに語る。

話が終わった後、
中野君は高柳という男を知らないか聞くが、
道也先生は知らないと言う。

道也先生が帰宅すると、
妻が、百円の借金があることを
道也先生の兄に伝えたこと、
兄が「自分が保証人になって百円を借りても
いい」と言ったことを道也先生に話す。

道也先生は「あと一月もあれば百円くらい
すぐに手に入る」と一笑に付す。

●4章

中野君が高柳君を誘って音楽会に行く。

華やかな席に場慣れしている中野君に対して、
こういう場に縁がなく、居心地の悪い高柳君。

音楽会の後、中野君は高柳君に
道也先生が訪ねてきたことを話す。

高柳君は咳をしていて体調が悪いようだ。

●5章

高柳君は中野君の恋愛論が掲載された
雑誌「江湖」に目を通す。

同雑誌に載っていた
「解脱と拘泥」という文章も読む。

●6章

道也先生の家を訪ねる高柳君。

過去のことはなかなか話せないが、
中野君が自分の友人であることや
「解脱と拘泥」に感銘を受けたことを語る。

「解脱と拘泥」は道也先生の作であり、
僕の文章をほめてくれたのは君が初めてだと
道也先生は喜ぶ。

やせていて咳をする高柳君の体調を
道也先生は心配する。

●7章

婚約者と仲睦まじく語り合う中野君。

話の中で、高柳君や道也先生のことも。

高柳君は新潟出身で、気難しく、
中学時代、学校から道也先生を追い出したこと。

以前、道也先生が中野君の家に来た時、
婚約者とすれ違っていたこと。

婚約者は道也先生の下駄が
草履のように薄くて驚いたこと。

色々なことを語り合う二人だった。

●8章

体調が思わしくない高柳君は
「一人ぼっちだ」と何度もつぶやく。

外へ出歩くと道也先生に会う。

高柳君は道也先生に自分の歴史を話す。

父が公金横領の罪で逮捕され、
獄中で肺病のため亡くなったことを・・・。

自分も肺病かもしれないと・・・。

道也先生は一人ぼっちでもいいと言うが、
高柳君はそうは思わない。

●9章

中野君の結婚式。

高柳君は用があって遅れて到着する。

新婚夫婦に挨拶をした後、
一人取り残される高柳君。

こういう場に来たことがない高柳君は
居心地が悪い。

新婚夫婦にもう一度挨拶をして
早く帰ろうとするが、
夫妻の周りにはたくさんの人がいて
そこまでたどり着けない。

仕方なく挨拶をせず高柳君は帰った。

●10章

「本は売れたのか」と道也先生に尋ねる妻。

道也先生は全然売れないと言う。

同輩で今は大学教授の足立の推薦文があれば
出版できるかもしれないが、断られた。

道也先生は外出するが、妻の不満は募る一方。

その時、道也先生の兄がやってくる。

兄は会社の役員で、
その会社の社長は中野君の父だ。

兄は妻と相談して、
兄が立て替えていた百円の借金の返済を
厳しく催促することによって、
道也先生が自ら教師をやると言い出すよう
段取りを立てる。

道也先生は今度演説をするようだ。

演説を止めさせたい兄は、
急用の使いを送ることにする。

●11章

兄から急用だという使いが来るが、
道也先生はそれを断る。

この演説は前からの約束で、
人を救うための演説だからと。

ある事件扇動の嫌疑をかけられた家族に、
演説会の収入をまわす計画なのだ。

道也先生は演説に行く。

会場には体調がすぐれない高柳君も来ていた。

いよいよ道也先生の演説が始まる。

冷やかし気味だった聴衆も、
道也先生の硬軟織り交ぜた演説に
次第に引き込まれていく。

金持ちを非難する内容の演説に、
聴衆は拍手喝さいを送る。

高柳君も肺病にもかかわらず、
わが意を得たりと大きな歓声を送った。

●12章

高柳君の見舞いに中野君が来る。

高柳君は演説を聞いたあと、
とうとう吐血するまで体調が悪化していた。

中野君は高柳君に、金は自分が負担するから
転地して養生するよう勧める。

断る高柳君だったが、中野君は
高柳君が思案中の小説を完成させる費用を
自分が負担する形を提案する。

転地先で養生しながら小説を執筆して、
完成したら一大傑作として世に送り出そうと。

高柳君もこの申し出は受け入れ、
中野君から百円を受け取る。

高柳君は養生先へ出発前、
道也先生に挨拶に出向く。

道也先生宅には、
兄の使いの借金取りが来ていたが、
道也先生は構わず高柳君を部屋へ通す。

明日養生先へ発つことを伝える高柳君。

道也先生は借金取りに、著作が売れるまで
百円の返済は待ってくれと頼むが、
兄の意向を受けた借金取りは首を縦に振らない。

話を聞いていた高柳君は、
道也先生の著作「人格論」を見せてもらう。

そして高柳君は道也先生に、
「人格論」を百円で売ってくれと頼む。

自分は越後であなたをいじめて
学校から追い出してしまった。

自分はあなたの弟子なので
この「人格論」を譲ってくれと。

驚く道也先生に高柳君は百円を渡して
「人格論」を受け取る。

高柳君は自分の著作の代わりに、
「人格論」を中野君へ渡しに向うのだった。

感想と見どころ3選

道也先生と高柳君、二人の対比

主人公・道也先生と
もう一人の主人公・高柳君。

この二人の対比が
本作の大きな見どころだと思います。

二人とも大学を出ていますが、
共に人づきあいが苦手で
物書きの仕事も上手くいっておらず、
生活は非常に苦しい。

対照的なのは、そんな現状を
道也先生は構わないと思っていますが、
高柳君は不満を募らせていること。

どんな状況でも泰然と構える道也先生に対し、
高柳君は体調まで崩してしまう・・・。

同じような境遇なのに、心の持ちよう一つで
こうも違うものなんだなと。

作者自身は一体どちらだったのか・・・。

周囲の人から見た二人

道也先生と高柳君の対比も面白いですが、
周囲の人々から見れば
この二人はいわゆる似た者同士。

人づきあいが苦手で
まともに働いていないっていう(^^)

そんな二人を
周囲の人はどういう風に見ていたのか、
その記述もたくさんあるので、
そこも本作の見どころだと思います。

道也先生の妻と兄、
高柳君の友人の中野君夫妻、
彼らの道也先生&高柳君評ですね。

妻や友人=世間一般の人が、
道也先生&高柳君=変わり者たちを
どのように見ているか、そういう視点です。

基本的にボロクソに言ってますが(^^;

作者自身が周囲の人間から
どのように思われていたのかを、
自ら書いたとも言えるでしょうか。

道也先生の演説

この小説で一番盛り上がる場面が、
第11章の道也先生の演説です。

12章は重要な展開もありますけど
エピローグみたいな感じだし、
事実上、11章がクライマックスでしょう。

演説の中で、道也先生は
世の中に対する不満をぶちまけ、
金持ちを徹底的に批判します。

作者本人の思いも
大いに入っているはず(^^)

まぁ今の感覚だと、
作者も世の中の「上」の側の人間で
金持ちだったんじゃないの?
って思いますけどね(^^;

だって夏目漱石ですよ(^^)?

まぁ後の世の大文豪も、
当時は不満を抱えまくりだったと
いうことでしょうね。

ともかく道也先生の演説は、
肺病で倒れる前夜の高柳君が
大声で喝采するぐらいに大盛り上がり(^^;

こんな演説ができれば、
どんな選挙でも当選間違いなしです(^^)

まとめ

「野分」は「二百十日」と
セットで語られることが多い作品。

どちらも知名度は高くないですが、
作者の世の中に対する
色々な考え方(ほとんど不満^^;)が
詰め込まれています。

難解でも長編でもないので、
作者をより深く知る上で
読んでおいて損はない作品だと思います。

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