夏目漱石の「行人」を読了!あらすじや感想です!

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夏目漱石の小説「行人」についてです。

ネタバレもありますので、ご注意を!

目次

行人とは
主な登場人物
あらすじ
・友達(全33章)
・兄(全44章)
・帰ってから(全38章)
・塵労(全52章)
感想

行人とは

行人(こうじん)は、1912~1913年に
朝日新聞上で連載された夏目漱石の長編小説で、
「友達」「兄」「帰ってから」「塵労」の
全4編から成り立っています。

いわゆる後期三部作の第二作で、
前作は「彼岸過迄」、次作は「こゝろ」。

三作に話のつながりはありませんが、
共通点として、主人公以外に悩める男性がいて、
その男性こそが真の主人公である点があげられます。

本作「行人」では、主人公・二郎の兄・一郎が、
その悩める男性=真の主人公になります。

タイトルの行人=行く人というのも
おそらく一郎のことを指していて、
わが道を行く一郎に、一郎自身はもちろん
周囲の人間も苦悩していくという内容です。

また、本作の特徴として、旅行する場面が
数多くあることがあげられます(主に関西と関東)。

現代でも有名な旅行先がいくつも出てくるので、
そちらも見どころの一つだと思います(^^)

主な登場人物

・長野 二郎(ながの じろう)
…主人公。3人兄妹の真ん中。家族と共に東京在住。

・長野 一郎(いちろう)
…二郎の兄。苦悩が尽きない大学教師。

・長野 直(なお)
…一郎の妻。一郎との間に一人娘の芳江がいる。

・長野 重(しげ)
…二郎の妹。勝気な性格で直とウマが合わない。

・岡田(おかだ)
…二郎の母の遠戚で長野家の元食客。大阪在住。

・兼(かね)
…岡田の妻。長野家の元奉公人。

・佐野(さの)
…岡田の同僚。貞に結婚を申し込む。

・貞(さだ)
…長野家の現奉公人。佐野と結婚予定。

・三沢(みさわ)
…二郎の友人。胃腸が弱い。

・H
…一郎の同僚の教師。一郎の良き理解者。

あらすじ

友達

二郎は家の奉公人・貞に結婚を申し込んでいる
佐野という男性と会うため、大阪にやってくる。
大阪では、佐野と貞の結婚を仲介している岡田夫妻の
家に泊まる。岡田は家の元食客で佐野の同僚。
岡田の妻・兼は家の元奉公人だ。
二郎は佐野と面会し、結婚を了承する手紙を家に送る。
また二郎は、大阪で友達の三沢と会う約束をしていた。
しかし胃腸の弱い三沢は体調を崩し入院中。
二郎はしばらく大阪で三沢の看病をすることになる。
三沢がいる病院には、三沢が「あの女」と呼ぶ女性も
入院していた。「あの女」は三沢と同じで胃腸が弱く、
今は亡き三沢と親しくて精神を病んだ女性に似ていた。
三沢は退院する時「あの女」に、
二郎が岡田から借りてきた見舞金を渡す。

※以下は二郎目線での各章要約
1章…大阪の岡田宅へ到着。三沢からの連絡はない
2章…岡田の妻・兼が帰宅
3章…岡田夫妻と談笑
4章…岡田と散歩
5章…岡田宅に泊まる
6章…三沢から遅れるかもしれないという手紙が届く
7章…岡田夫妻と、佐野と貞の縁談話をする
8章…佐野に会うため岡田夫妻と一緒に料理屋へ行く
9章…佐野との面会を無難に果たす
10章…母宛に佐野と貞の結婚を了承する手紙を書く
11章…三沢からの連絡がこないので帰京できない
12章…三沢は入院していた。病院へ見舞いに行く
13章…三沢は胃の上に氷嚢を載せて寝ていた
14章…病院を出て三沢が泊まっていた宿で宿泊する
15章…病室で三沢と話す
16章…病院と宿を行き来する生活が続く
17章…岡田から三沢の様態を気に掛ける電話がある
18章…三沢が「あの女」と呼ぶ入院中の女性が気になる
19章…三沢は「あの女」と以前会ったことがあるらしい
20章…三沢は「あの女」の病室へ入る
21章…以前三沢は胃が弱い「あの女」に酒を強いていた
22章…「あの女」の病室には見舞客が絶えず来る
23章…「あの女」は芸者だった。彼女の容態は悪化する
24章…暑い中「あの女」はどうにか持ちこたえる
25章…三沢と違い「あの女」への興味は低くなる
26章…三沢の「あの女」への興味はますます強くなる
27章…三沢は退院を決断する
28章…三沢は「あの女」へ見舞金をやりたいと言う
29章…岡田に金を借りる
30章…三沢は金を受け取り「あの女」を見舞う
31章…三沢は退院。「あの女」は三沢を覚えていた
32章…三沢はかつて精神を病む娘さんと親しかった
33章…「あの女」は今は亡きその娘さんに似ていた

岡田が長野一家を大阪に招待。旧交を温める。
佐野と貞は年内に東京で挙式することが決まる。
長野家の4人(母・一郎・直・二郎)は和歌山へ旅行。
道中の汽車の中、何かを考え込んでいる一郎に、
二郎は三沢から聞いた精神を病んだ娘さんの話をする。
一郎はその話を同僚のHから聞いて知っていた。
和歌の浦に到着し宿へ入る。一郎は、
精神を病んだ娘さんは、純粋な心で三沢のことを
想っていたのだろうと言い、そういう状態にならないと
女性の本心は分からないのかなと漏らす。
息子夫婦の仲を心配する母は、直への不満を二郎に語る。
一郎は屋外型エレベーターに二郎を誘い、
二人だけで話ができる場所へ向かう。一郎は二郎に、
直がお前に惚れているのではないかと問う。二郎は否定。
一郎は二郎に頼みがあると言うが、そのまま宿へ戻る。
翌日、一郎と二郎は紀三井寺へ。
そこで一郎は二郎に、直と一泊してくれと頼む。
二郎は断るが、それでも一郎は頼み、
昼の間に帰ってくるという条件で、
二郎は直と二人っきりで出かけることになる。
翌日、二人で出かける二郎と直。
二郎が直に、兄に親切をしてあげて下さいと頼むと、
直は夫に対し出来るだけのことをしていると涙を流す。
いつの間にか、和歌の浦が暴風雨に包まれる。
電話も俥も電車も使えないので、二人は一泊することに。
どうせなら暴風雨の中で猛烈で一息な最期を迎えたいと
言い放つ直に、二郎は驚かされる。
翌朝、二郎と直が宿へ戻ると、一郎の目は充血していた。
一郎は二郎を呼び、直のことが分かったかと問う。
二郎は分からないと答え、
詳しいことは東京に帰ってから話すと言う。
そして東京へ帰る荷造りを終える。

※以下は二郎目線での各章要約
1章…三沢が帰京した翌日、母と兄夫婦が大阪に到着
2章…岡田が用意した宿へ入る
3章…母や兄夫婦と談笑する
4章…岡田夫妻が宿にやってきて皆で談笑する
5章…一家と佐野の面会が終了し、年内の挙式が決定
6章…大阪は暑いので和歌の浦行きが決定
7章…岡田に借りた金を返すため、母から金をもらう
8章…翌朝和歌山へ出発する予定。岡田が訪問してくる
9章…夜、酔った岡田を送る途中、金を返す
10章…兄は三沢と精神を病む娘さんの話をHから聞いていた
11章…和歌山に到着。兄は娘さんの話をどう思うかと問う
12章…兄は娘さんは三沢に気が合ったに違いないと言う
13章…母は兄夫婦の仲が悪いのは兄嫁のせいだと言う
14章…兄嫁が兄をどう思っているか聞いてみると母に言う
15章…宿に泊まる。兄夫婦の部屋は静か
16章…兄と二人で屋外型エレベーターに乗り岩の上へ行く
17章…兄は二人っきりで話ができる場所を探す
18章…兄は兄嫁がお前に惚れているのではと言い出す
19章…否定すると兄は目に涙をためて謝る
20章…兄は兄嫁の心が分からないと言う
21章…兄は今日ここへ来たのは頼みがあるからだと言う
22章…しかし兄は話さず二人で宿へ戻る
23章…翌夕、兄と紀三井寺へ行くと頼みがあると言われる
24章…兄から、兄嫁と一晩泊まってきてほしいと頼まれる
25章…断ると、昼の間に帰ってこいと言われ、引き受ける
26章…兄嫁と二人で出かけることに母は反対する
27章…母が兄と話をすると母も了承。兄嫁と出かける
28章…兄嫁と電車に乗り、その後俥に乗る
29章…料理屋で風呂に入り食事をする。雨が降ってくる
30章…兄嫁に用談があると告げる
31章…兄に親切にしてくれと言うと、兄嫁は泣き出す
32章…和歌山が暴風雨に包まれ、電話も通じなくなる
33章…外は危険なので、今夜は一泊することに決める
34章…料理屋から宿屋へ移動。電話は通じない
35章…宿で料理を待っていると停電する
36章…電灯は点いたり消えたり。外は暴風雨
37章…夜、兄嫁は猛烈で一息な最期がいいと言う
38章…どうかしていると指摘すると、兄嫁は否定する
39章…翌朝はいい天気。母と兄のいる宿へ戻る
40章…兄に会うと兄の眼は充血している
41章…昨晩のことを兄にどう伝えるか悩む
42章…兄に呼ばれ、兄嫁のことは分からないと伝える
43章…詳しいことは東京へ帰ってから話すことになる
44章…東京へ出発する荷造りを終える

帰ってから

長野一家は和歌山から帰京。
二郎は、東京に帰ったら直と一晩泊まった時のことを
話すという一郎との約束を果たせずにいた。
一郎は二郎に話してくれと言うが、二郎ははぐらかす。
ある日家に客が来て、父が話を始める。二十五六年前、
結婚を約束した男女がいたが、男性の方から断る。
二十数年後、男性は偶然、盲目となった女性を見かける。
父は男性に頼まれ女性に会いに行く。
女性は男性からの見舞金を断り、
結婚を断った理由を知りたいと訴える。
父は適当に答えて女性を納得させる。
後日、一郎と二郎は二人で話をする。
一郎は、この前の父の話に出てきた盲目の女性に
大いに同情し、父の軽薄さに心の中で涙したと言う。
そして、二郎も父の悪いところを受け継いでいる、
直の報告もしてこないと言う。
二郎が反論すると、大声で「馬鹿野郎」と言い、
もう直のことは聞かない、この軽薄児めと言い放つ。
二郎は家を出ることを決心し、重、母、父に伝える。
直は母から聞いて知っていた。最後に一郎に伝えると、
一郎は一人で出ていくのかと問い、
自分は敗北者でお前は勝利者だと言う。
下宿生活を始めた二郎は三沢から、
一郎が講義中に考え込むことがあると聞く。
二郎は、三沢と親しかった精神病の娘さんと
一郎を結び付けて考え、心配になる。
佐野と貞の結婚が近づき、家にみんなが集まる。
一郎は貞を呼び二人で話をする。
話を終えた貞の眼に、二郎は涙の跡を認める。
一郎と直が仲人を務め、佐野と貞の結婚式が行われる。
二郎の下宿に重、母、三沢は時々来るが、
直、一郎、父は一度も来ない。

※以下は二郎目線での各章要約
1章…東京へ向けて和歌山を出発
2章…兄夫婦の仲の良い様子を見て母は満足そう
3章…東京に戻る。いつもの日常と変わったところはない
4章…兄は冷静になっていたが、このところ口数が少ない
5章…兄は子供や妻との関わり方が分からないと言う
6章…兄は和歌山の件について、じきに話してくれと言う
7章…兄嫁と重の仲が良くない。兄はますます沈んだ様子
8章…重と口喧嘩。重は泣き出す。
9章…重に兄嫁みたいな人を嫁に貰えばいいと言われる
10章…重は兄を慕っているので兄嫁を嫌っていた
11章…父の謡仲間が2人家にやってくる
12章…父と客2人の謡を兄夫婦と一緒に見る
13章…父がある男女の話を始める
14章…その男女は結婚の約束をしたが男性の方から断った
15章…20数年後、男性は盲目となった女性を偶然見かけた
16章…父は男性に頼まれ、女性に面会しに行った
17章…女性は父と会うが、男性からの見舞金は断った
18章…女性は父に男性が結婚を断った理由を聞いた
19章…父はいい加減に答え、女性を無理やり納得させた
20章…秋が段々深くなった。兄の部屋へ行く
21章…兄にお前は父の悪いところを受け継いだと言われる
22章…兄に「この馬鹿野郎」と大声で言われる
23章…家にいるのが嫌になり、家を出る決断をする
24章…家を出ることを重と母に話す
25章…父にも話す。兄嫁は母から聞いて知っていた
26章…兄の部屋に行き、家を出ることを話す
27章…兄は一人で出るのかいと言って笑う
28章…兄は自分は敗北者でお前は勝利者だと言う
29章…家を出て下宿生活を始める
30章…三沢から兄が講義中に考え込むことがあると聞く
31章…精神病の娘さんと兄が結び付き、心配になる
32章…母から兄が熱を出して妙なうわ言を言ったと聞く
33章…貞の結婚が近づき、実家にみんなが集まる
34章…兄が貞と2人で話す。貞の目に涙の痕跡を認める
35章…結婚式の仲人を兄夫婦が務めることになる
36章…佐野と貞の結婚式が終了
37章…下宿に重が兄の悪口を言いにくることがある
38章…兄嫁、兄、父は下宿に一度も来ない

塵労

春の彼岸の日、二郎の下宿に初めて直がやってくる。
直は一郎との関係がよくない方向に進んでいくと訴える。
一郎と直のことが気になる二郎。
実家では、重や父母までもが一郎の異常を訴える。
二郎は父母と相談し、一郎に旅行を勧めることにする。
二郎は、一郎と一番親しいHに旅行へ行ってもらうため、
在学中Hを保証人にしていた三沢を介して、Hに頼む。
Hは一郎に別段変わったところはないと言うが、
二郎の頼みを引き受けてくれる。
三沢は二郎に、一郎のことよりも早く結婚しろと言う。
6月の講義が終わり次第、兄とHが旅行することが決まる。
6月に入り、二郎は三沢に雅楽所へ連れていかれる。
そこには女性が二人いて、一人は三沢と結婚予定の女性、
もう一人は三沢が二郎の結婚相手に進める女性だった。
二郎はその女性が気にはなるものの、
一郎のことが気になり、女性のことまで気が回らない。
旅行の前、二郎はHと会い、旅行中の一郎の様子を
できるだけ詳しく書いて知らせてほしいと懇願する。
Hはその必要性に疑問を示しながらも同意する。
一郎とHは旅行に出発。
旅行に出てから11日目、Hから二郎に重い封書が届く。
そこには旅行中の一郎の詳しい様子と、
一郎に対するHの思いが綴られていた。
Hは一郎が就寝中に手紙を何度かに分けて書いた。
旅行中、一郎は自分が抱えている悩みや苦しみを、
何度も繰り返しHに告白した。
「行動と目的が一致しないことほど苦しい事はない」
「人間全体の不安を自分一人に集めている」
「僕の前途は死・気が違う・宗教に入るの3つだけだ」
「僕は生死を超越しなければダメだと思う」
「僕は迂濶で矛盾でもがいている馬鹿だ」
「どうかして香厳(一切を棄てた昔の僧)になりたい」
Hは一郎を救いたいと考え、様々な話やアドバイスをした。
そして二郎に向けて手紙を記した。
「彼は凡庸な私に頭を下げ涙を流すほどの正しい人だ」
「彼をただの気難しい人と解釈してはいけない」
「それではいつまで経っても彼を理解できない」
「私がしたように彼の不安を取り除く努力をすべきだ」

※以下は二郎目線での各章要約(28章まで)
1章…冬が終わり彼岸になる。下宿に兄嫁が訪ねてくる
2章…兄嫁がなぜ訪ねてきたのか、不安で驚きがあった
3章…兄嫁に家に来ない理由を問われ忙しいからと答える
4章…兄嫁は兄との関係が思わしくないことを打ち明ける
5章…兄が兄嫁に酷いことをするのではないかと怖くなる
6章…父から日曜の朝に下宿に行くという電話がある
7章…日曜、父が下宿に来て当り障りのない話をする
8章…父と一緒に上野の表慶館や精養軒に出掛ける
9章…父に連れられ久々に実家へ行く
10章…父は家族に内緒で自分を家に連れてきてくれたのだ
11章…重から兄が家族ともあまり話をしないことを聞く
12章…父母も兄の心配をし、兄に旅行を勧めることになる
13章…兄と一番親密なHに旅行を頼むため、三沢の家へ
14章…三沢に事情を話し、一緒にHの家へ行く
15章…Hに事情を話し、兄との旅行を了承してもらう
16章…三沢から結婚を勧められる
17章…Hと兄の旅行が決まったと三沢から連絡がある
18章…三沢に誘われ雅楽を見に行く
19章…そこには三沢の結婚相手と、もう一人の女性がいた
20章…三沢はその女性のことを気に入らないかと言う
21章…三沢とその女性の話をするが、兄のことが気になる
22章…Hに会い、旅行中の兄を詳しく報知してくれと頼む
23章…兄のことが片付かなければ、心に余裕は出ない
24章…兄がHと一緒に出発したと兄嫁から電話が入る
25章…実家に行く。兄嫁は兄に愛想を尽かされたと言う
26章…重は自分の秘密を知っていると言う
27章…重の言う秘密とは、自分の結婚問題だった
28章…兄とHが旅行に出て11日目、Hから重い封書が届く
※以下はHが二郎に書いた手紙
29章…広い別荘で兄さんが就寝中なので手紙を書ける
30章…旅行に出発した日の晩、手紙を書く必要性を認める
31章…兄さんは常にやっていることと目的が一致しない
32章…兄さんは人類全体の不安を自分一人に集めている
33章…兄さんが宗教の道に入るのではないかと考える
34章…兄さんは死んだ神より生きた人間の方が好きと言う
35章…兄さんは昨夜も寝られなくて困ったと言う
36章…兄さんは朋友として君から離れるばかりだと言う
37章…兄さんは妻に手を挙げたことを打ち明ける
38章…兄さんは鋭敏な人でとても苦しんでいる
39章…兄さんは死・気が違う・宗教の3つしかないと言う
40章…兄さんに全てを投げだせば楽になれると告げる
41章…兄さんは怒った私に神を信頼していないと言う
42章…兄さんは浜に出て、山に行こうと言い出す
43章…荒天の中、兄さんは私と山歩きを楽しむ
44章…兄さんは生死を超越しなければ駄目だと訴える
45章…兄さんは私を実効的で偉大だと評して涙を流す
46章…兄さんは私に頭を下げ涙を流すほどの正しい人だ
47章…兄さんが些事に気を取られ我を忘れるのは愉快だ
48章…兄さんに絶対を求めるより我を忘れるのを勧める
49章…兄さんは無欲なお貞さんのようになりたいと言う
50章…兄さんは一切の重荷を棄てて楽になりたいのだ
51章…兄さんは自分の妻を悪くしてしまったと言う
52章…兄さんの頭を取り巻く雲を散らしてあげればいい

感想

後期三部作の真ん中の作品である「行人」。

短編を集めて一つの長編作品を作るという
珍しい手法が取られた前作「彼岸過迄」や、
漱石文学の集大成ともいえる次作「こゝろ」と比べると、
やや影の薄い作品でしょうか(^^;

後期三部作には必ず、
主人公と近い関係にいる悩める男性がいて、
その男性こそが「真の主人公」という形式ですけど、
本作での悩める男性は、大学教授の長野一郎さん。

後期三部作の「真の主人公」の中でも、
もっとも駄目なオッサンです(^^;

なんせ一郎は現代風に言うと「DV夫」ですからね・・・。

一郎が親友のHに打ち明けたところによると、
彼は妻の直に対して、
「一度打っても落ちついている」
「二度打っても落ちついている」
「三度目には抵抗するだろうと思ったが、
やっぱり逆らわない」
・・・いやいや、殴りすぎでしょ。さらに、
「僕が打てば打つほど向こうはレデーらしくなる」
「女は腕力に訴える男よりはるかに残酷」
「なぜ僕に打たれた時、怒って抵抗してくれなかった」
「なぜ一言でも言い争ってくれなかったと思う」
・・・いやもう何言ってんだコイツは。
抵抗したらさらに殴ってくるのがDV夫でしょ。
・・・この最低男が真の主人公ですよ・・・。

一郎が殴った理由は明示されていませんが、
おそらく、妻と弟の関係を疑ってのことでしょう。
まぁそれ自体がただの妄想なんですけど。

あと一郎は、結婚すると女性は
「天真が損なわれる」「夫のために邪になる」と
言っています。

まぁその理由は夫の側にあるとも言っていますが、
それにしても酷い考え方ですよね。

劇中、妻・直が義弟・二郎の下宿を初めて訪れ、
夫婦関係が上手くいっていないと
打ち明ける場面がありましたが、
たぶん夫にDVを受けた後でしょうね・・・。
直は「男は嫌になればどこへでも行けるけど、
女はそうはいかない。立ち枯れになるまで
じっとしているしかない」と言っていますが、
いや、離婚しましょうよ、本気で。
それができない時代だったのか・・・。

そしてこの作品は、一郎の親友・H先生による、
「一郎は本当はいいヤツなので、
彼を拒絶してはいけない。
彼を受け入れる努力をしましょう」
という結論の長~い手紙で
いい感じ風に終了するわけですが、
いやH先生、っていうか漱石先生、
それはちょっと無理がありますよ・・・。

一郎が人生に悩むのは分かりますが、
DVは絶対に駄目です。

というわけで、
DV一郎の印象が強すぎる作品なんですが、
他に印象に残った点を3つ挙げておきます。

・病院の描写

小説序盤「友達」の後半部分は、
主人公・二郎の友人・三沢が入院している
病院が舞台となります。
そこでは、入院中の病院の様子がかなり長く、
そして詳しく描かれています。
これはおそらく漱石自身の実体験が
元になっていると思います。
三沢は胃の病気を患っていて、
もう一人同じ病気の女性もでてきますが、
漱石自身も胃の病気でしたし、
それが原因で本作のわずか数年後に
命を落とすことになります。
病人・病気・病室・病棟などの詳しい描写は、
漱石自身の経験が色濃く反映していると思います。

・観光名所

全4編から成る本作ですが、
「友達」が大阪、
「兄」が和歌山、
「帰ってから」が東京、
「塵労」が箱根と、
様々な場所が舞台となります。
なかでも「兄」の和歌山と「塵労」の箱根は、
旅行で訪れる場所なので、
当時の観光地がたくさん出てきます。
一番印象に残ったのが、
和歌山の屋外型観光用エレベーター。
この作品で存在を初めて知りました。
当時、漱石が実際に和歌山を訪れた際に
そのエレベーターに乗ったそうです。
今ではもうありませんが、
当時の最先端の観光名所だったんでしょうね。
小説の中でも、和歌山旅行は
前半の山場といえる場面なので、
特に印象に残ります。

・「結」がない

結局主人公たちがどうなったのか、
そこが描かれていません。
起承転結の「転」で終わっているんですよね。
主人公である二郎の結婚話も
曖昧のまま終わっているし・・・。
Hからの手紙で一郎のことが分かったとして、
それで二郎たち家族は一郎とどう接したのか。
そこを知りたいし、そこを書いてほしいわけです。
たとえ「一郎はいい人」という
H先生の話を受け入れたとしても、
家族が一郎に温かく接するのは、
なかなか難しいとは思いますけどね。
以前から家族は一郎を受け入れていたのに、
一郎の方から遠ざかっていったわけで・・・。
ともかく「行人」に限ったことではありませんが、
ちゃんと「結」まで書いてほしいと思いました。


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